韓国の水道水は飲める? 公式データと、住民が浄水器を置く理由
韓国の水道水は法定の水質基準を満たしていて、口にして体調を崩すような水ではありません。ただ、コップに蛇口の水を注いで飲む人は、韓国ではあまり多くありません。この差がどこから来ているのかは、公開されている数字である程度たどれます。
数字の上では「飲める水」
韓国の飲料水の水質基準は60項目あります。ソウル市の水道水「アリス」はこれに独自項目を上乗せし、浄水の検査を362項目まで広げました。市が公表している最新の品質報告書では、浄水センターから家庭の蛇口、公共図書館など不特定多数が使う施設まで、1年間で5,400件あまりの水質検査を行い、すべて基準に適合しました。鉛・ヒ素・カドミウムなど9項目と、フェノールやベンゼンといった有害物質17種は検出されていません。
残留塩素は0.1〜4mg/Lの範囲で管理する決まりで、ソウル市はさらに幅を絞り、蛇口で0.1〜0.3mg/Lを目安にしています。塩素のにおいがするのは、消毒が最後まで効いている裏返しでもあります。
水道法は各自治体に、年1回以上、水道水の品質報告書を作って住民に提供するよう義務づけています。ソウルに限らず、訪ねる都市の水質データはその自治体のサイトで公開されています。
それでも、そのまま飲む人は多くありません
環境部が3年ごとに実施する「水道水を飲む実態調査」の2024年版は、全国72,460世帯を訪問して行われました。家で水を飲むとき「水道水を(沸かした場合を含めて)飲む」と答えた世帯は37.9%。浄水器が53.6%、市販のペットボトル水を買うが34.3%でした(複数回答)。
ソウル市が2025年8月に市民1,000人へ行った調査では、家で主に使う方法として浄水器39.8%、水道水をそのままか沸かして27.3%、市販の水26.8%という順でした。
同じ調査からソウル市は「飲み水として水道水を利用する市民は75%」とも発表しました。これは家庭内の56.3%に「1年以内に外で水道水を飲んだ経験」18.7%を足した数字で、日常的に飲んでいる割合とは別物だという指摘が専門家から出ています。数字の読み方は地元でもまだ落ち着いていません。
日本と並べてみます。内閣府の「水循環に関する世論調査」(2020年10月)で「特に措置を講じずに水道水をそのまま飲んでいる」と答えた人は43.9%、浄水器28.0%、ミネラルウォーター購入33.9%でした(複数回答)。家庭でひと手間かけてから水を飲む習慣という点では、両国はそう遠くありません。
心配されているのは浄水場より、そこから先
2024年の調査で、水道水を飲まない理由の第1位は「老朽化した水道管の不純物が心配」で34.3%。「健康に良くなさそう」が21.5%、「塩素のにおい」が13.2%と続きます。
韓国の水道の要点はここです。道路の下を走る配水管について、ソウル市は13,271km、整備率99.9%まで交換を終えたとしています。建物の中の給水管と、屋上や地下の貯水槽を管理するのは、建物の所有者です。貯水槽の清掃を6か月に1回以上と法律が定めているのは延べ床面積5,000㎡以上の大型建築物などで、小さな建物はその義務の対象外になります。浄水場を出た時点の水がきれいでも、最後の数十メートルは建物ごとの事情に左右される——住民の警戒はここに向いています。
過去の出来事も効いています。2019年に仁川で赤い水が出た事故は、送水の方向を変えたことで流速が上がり、管内の堆積物が剥がれたのが原因でした。翌2020年には仁川の浄水場でユスリカの幼虫が混入する騒ぎも起きています。どちらも全国規模の問題ではありませんでしたが報道が大きく、「水道水はひとまず沸かす」という感覚を後押しした出来事として今なお引き合いに出されます。
ソウルと地方で違いはあるのか
水道は自治体ごとの事業なので、水源も設備も管の状態も地域で異なります。公開データの量ではソウルが突出していますが、それは報告書の詳しさの差であって、他都市の水質が劣ることを意味しません。釜山、大邱、光州といった広域市も、それぞれ自前の浄水場と品質報告書を持っています。
旅行で行く主要都市は、いずれも自治体の上水道の区域内です。系統が変わるのは山間部や離島の小規模給水施設で、地下水を使っている場合もあります。そうした地域の宿に泊まるなら、飲用に使えるか宿の人に聞いておくのが確実。
旅行中の現実的な選び方
いちばん手軽なのは沸かすことです。ホテルやゲストハウスにはたいてい電気ケトルがあります。先ほどの2024年調査でも、ご飯や料理に水道水をそのまま使う世帯は66%、お茶やコーヒーに使う世帯は47.5%ありました。加熱するなら抵抗感がぐっと下がる、というのが韓国での相場観です。
買う場合、コンビニの定番であるサムダス(三多水)500mlが1,100ウォン(CU、2026年5月時点)。コンビニ自社ブランドの水はもっと安く、CUのミネラルウォーターは1Lで1,000ウォンです。スーパーやディスカウントストアはさらに安いので、滞在が長いなら大きいボトルをまとめ買いするほうが得です。
飲食店とカフェの水は無料で、多くの店が浄水器の水を出します。セルフサービスの店なら入口近くに給水機があります。席で頼むときは「물 주세요(ムル チュセヨ)」で通じます。
ソウルには公園、広場、公共機関の窓口などにアリスの水飲み場があり、設置場所はソウルアリス本部のサイトで確認できます。マイボトルがあるなら使えます。
しばらく人が入っていなかった部屋の蛇口は、数十秒流してから使うと、管に溜まっていた水を避けられます。築年数の古い建物では特に効きます。
浄水場から出る水は基準を満たしています。残る不確かさは建物ごとの給水設備にあり、住民が浄水器や市販の水をあいだに挟むのはそのためです。旅行者が同じ発想でいくなら、費用のかからない順に、沸かす、コンビニで買う、水飲み場を使う、の三つが現実的な選択肢になります。